音楽の考察・妄想

ずっしーさんの「カノン進行の曲をオシャレ和音に変えていく方法」を解説

いやー面白いですね、この動画。

元のシンプルなカノンのコード進行がオシャレに、そしてジャジーに変わっていく様をうまく表現されていて、見ていて単純に「音楽って面白い!」「すごい!」と思いました。

作成者の「ずっしーさん(@zussie_piano)」のツイートがこちら。

ずっしーさんの動画はTwitterを中心に拡散されて話題となったと思われますが、それは「普段音楽に携わっていない人たち」に音楽の面白さ・奥深さを伝えることに成功したからこそ、起こったコトなんだと思います。

Youtubeのコメント欄にもそのような絶賛の声、驚嘆の声があふれていますからね。

その一方で、「難しい」「理解できない」というコメントも多数見受けられました。動画内では細かい論理的な説明がなかったので、それも当然だと思います。

「面白いけど、どうしてそうなるのか理屈を知りたい!」と思っている人も多いのではないでしょうか?

そんなワケで、僭越ながらこのすばらしい動画を補足的に解説しようと思いたって今に至ります。

ツーファイブを使ってドミナントモーション

ずっしーさんがこの動画の中で紹介されている「コード進行をオシャレに変身させるテクニック」は、

  1. 分数コード(転回形)を使ってベースラインをなめらかに
  2. ツーファイブを使ってドミナントモーション
  3. ツーファイブに裏コードとテンションを入れる

大きく分けてこの3つになります。

これらのテクニックがあまりにもサラッと(そして鮮やかに)紹介されているので、ボーッと眺めていると「アッ」という間に動画が終わってしまいますが、このたった1分ちょっとの短い動画の中には学ぶべきエッセンスが凝縮されています。

3つのテクニックをここできちんと解説するとなると膨大なコンテンツ量になりそうなので、この中でもっとも重要かつ応用範囲の広い

「ツーファイブを使ってドミナントモーション」

という部分にスポットを充てて解説してみようと思います。

よくあるツーファイブを使ったアレンジは、ドミナント「❺7」を分割して「❷m7→❺7」にするというモノですが、ずっしーさんの「ツーファイブを使ってドミナントモーション」はそれとはまったく違うアプローチでした。

分析してみて「なるほど!」と思いました。リハーモナイズに詳しくないぼくにとって、正直目からウロコでしたね。

とても勉強になりました。

シンプルなカノン進行がツーファイブでオシャレに変身

↑「ツーファイブを使ってドミナントモーション」から再生されます

まずは元となるコード進行を見てみましょう。この曲は「Key=Cメジャー」なので、Cを❶としてディグリーネーム(度数)を添えています。

コード C G Am Em
度数 ❻m ❸m
コード F C Dm G
度数 ❷m

このシンプルな「カノン進行」が、「ツーファイブを使ってドミナントモーション」によって次のように変身します。

元のコード G
Em
コード C Bm7-5E7 Am Gm7C7
度数 ❼m7-5 ❸7 ❻m ❺m7 ❶7
元のコード C
コード F Em7A7 Dm G
度数 ❸m7 ❻7 ❷m

2小節目、4小節目、6小節目のコードがこのように変化しました。

これだけで、まるで魔法にかかったかのように一気にオシャレな響きになりました。そしてなめらか。

一体ナニが起きたのか??

まず、2小節目についてみていきましょう。

「Bm7-5・E7」はどこからやってきた!?

もう一度、コードの変化を表した図を見てみましょう。

元のコード G
Em
コード C Bm7-5E7 Am Gm7C7
度数 ❼m7-5 ❸7 ❻m ❺m7 ❶7

ずっしーさんの動画の中で「Bφ」と表記されているコードは「ハーフディミニッシュ」ですが、当ブログでは構成音がわかりやすいように「Bm7-5(マイナーセブン・フラットファイブ)」と書き換えています。

Bm7(シ・レ・ファ#・ラ)の5度の音(ファ#)を半音下げたモノがBm7-5(シ・レ・ファ・ラ)です。

Bm7-5は4和音のダイアトニックコードの7番目に当たります。

「Key=Cメジャー(Aマイナー)」のダイアトニックコード

3和音

C Dm Em F G Am Bm-5
❷m ❸m ❻m ❼m-5

4和音

C△7 Dm7 Em7 F△7 G7 Am7 Bm7-5
❶△7 ❷m7 ❸m7 ❹△7 ❺7 ❻m7 ❼m7-5

2小節目に突如として現れた「Bm7-5E7」というコード。

2小節目のGが、なぜ「Bm7-5E7」に変わったのか?

と思ってしまいますよね。

実は「Bm7-5E7」はGが変化したモノではなく、3小節目のAmから導き出されたモノなんです。

Bm7-5E7」は、元の場所にあったコードGとはなんの関係もありません。

じゃあAmからどうやって「Bm7-5E7」が導き出されたのかと言うと、その答えこそが「ツーファイブ」です。

↓ターゲットに対するツーファイブ ↓ターゲット
コード C Bm7-5E7 Am Em
度数 ❼m7-5 ❸7 ❻m ❸m

ずっしーさんの動画の中で表示されている「ツーファイブを使ってドミナントモーション」というのは、

Amをワン(1)と見立ててツーファイブ(2・5)を差し込む

というコトなんです。

3小節目のAmに対するツーファイブを2小節目に差し込み、ドミナントモーションを形成しているワケですね。

とは言っても、ツーファイブとドミナントモーションについて理解していないとチンプンカンプンだと思うので、さらっと紹介しておきます。

「ツーファイブ」「ドミナントモーション」とは

「ツーファイブ」とはコード進行の流れのひとつを表しているモノで、ディグリーネームで表すと

❷m7→❺7→❶

という風になります。「Key=Cメジャー」に当てはめると

❷m7Dm7→❺7G7→❶C

になります。なめらかで自然な流れを感じますよね。これは4度進行(自然で帰結感の強い進行)を2回おこなっているからです。

中でももっとも強力な4度進行になる「❺7→❶」の流れを「ドミナントモーション」と呼びます。

つまり、ツーファイブにはドミナントモーションが含まれていて、「この仕組みを利用してなめらかなコード進行に変化させよう」というのが、ずっしーさんの動画で言われている「ツーファイブを使ってドミナントモーション」の趣旨なんです。

「ツーファイブ」という名前は、それをディグリーネームで表すと❷と❺になることが由来です。

❶も合わせて「ツーファイブワン」と呼ばれることもあります。

ディグリーネームについての詳細はディグリーネームの読み方や意味を理解するためのポイントを参照してください。

2小節目:Amにツーファイブを当てはめてみよう

↑「ツーファイブを使ってドミナントモーション」から再生されます

では、本題に戻りましょう。

元のコード G
Em
コード C Bm7-5E7 Am Gm7C7
度数 ❼m7-5 ❸7 ❻m ❺m7 ❶7

このように、「ツーファイブを使ってドミナントモーション」によって2小節目にBm7-5E7が挿入されていますが、

  • Bm7-5・・・Amを「ワン」としたときの「ツー」
  • E7・・・Amを「ワン」としたときの「ファイブ」

になっているというワケですね。

「ファイブ→ワン」の進行がドミナントモーション

E7(ファイブ)→Am(ワン)

の進行がドミナントモーションになっています。

ドミナントモーションを形成するためには「ファイブ」がドミナントコードである必要があるため、Em7(ミ・ソ・シ・レ)ではなくE7(ミ・ソ#・シ・レ)になっているんですね。

結果的にソに#がつき、ノンダイアトニックコードになっています。

「ツー」が「m7ー5」になっている理由

なんで「ツー」がBm7ではなくBm7-5というように「-5」がついているのかと言うと、「ワン」のAmがこのKeyのマイナーのトニックだからです。

「ワン」がマイナーのトニック(ラ・ド・ミ)だと、「ツー」はダイアトニックでは(シ・レ・ファ・ラ)になり、「シ・ファ」の音程が減5度になります。

よって、減5度の音を含む「m7-5(マイナーセブン・フラットファイブ)」になるというワケです。

ダイアトニックに当てはめることを気にせず、Bm7(シ・レ・ファ#・ラ)でもいいのではないかと個人的には思ったりしますが、ずっしーさんはBm7-5を選んでいるということです。

4小節目:Fにツーファイブを当てはめてみよう

↑「ツーファイブを使ってドミナントモーション」から再生されます

では次は4小節目のコードの変化について見てみましょう。

元のコード G
Em
コード C Bm7-5E7 Am Gm7C7
度数 ❼m7-5 ❸7 ❻m ❺m7 ❶7
元のコード C
コード F Em7A7 Dm G
度数 ❸m7 ❻7 ❷m

4小節目は元のコードがEmだったのが、「Gm7C7」に変化しています。

コレも、先ほどの例とまったく同じ仕組みです。つまり、その次の小節のFに対するツーファイブとして「Gm7C7」が配置されているんです。

Gm7C7」は、元のコードEmとは因果関係にありません。

Gm7(ツー)→C7(ファイブ)→F(ワン)

という感じで、Fを❶に見立てて❷m7と❺7を手前に配置しているんですね。

このGm7(ツー)とC7(ファイブ)は「Key=Fメジャー」からコードを拝借しているという解釈になります。

「Key=Cメジャー」として見ると、これらのコードはノンダイアトニックコードになります。

6小節目:Dmにツーファイブを当てはめてみよう

↑「ツーファイブを使ってドミナントモーション」から再生されます

では次は6小節目です。

元のコード G
Em
コード C Bm7-5E7 Am Gm7C7
度数 ❼m7-5 ❸7 ❻m ❺m7 ❶7
元のコード C
コード F Em7A7 Dm G
度数 ❸m7 ❻7 ❷m

6小節目はCだったのが、「Em7A7」に変化しています。

もうおわかりですね。その次の小節のコードDmに対するツーファイブを配置した結果です。

Em7(ツー)→A7(ファイブ)→Dm(ワン)

これは「Key=Dメジャー」からコードを拝借していることになります。

実は7・8小節目も変わっている

さて、これでずっしーさんの動画の「ツーファイブを使ってドミナントモーション」が実際にどういうことをやっているのかがおわかりになったと思います。

これで終わり・・・ではありません。動画の中では触れられていませんが、実は7・8小節目のコードも変化しています。

それについても解説しておこうと思います。

元のコード G
Em
コード C Bm7-5E7 Am Gm7C7
度数 ❼m7-5 ❸7 ❻m ❺m7 ❶7
元のコード C
Dm
G
コード F Em7A7 Dm7Dm7-5 G7G7add♭9
度数 ❸m7 ❻7 ❷m7 ❷m7-5 ❺7 ❺7add♭9

7小節目の元のコードはDmですが、「Dm7Dm7-5」に変化しています。

8小節目の元のコードはGですが、「G7G7add♭9」に変化しています。

Dm7-5G7add♭9はどこからやってきたのでしょうか?

コレは今までのような「ツーファイブを使ってドミナントモーション」の法則で導き出されたモノではありません。

個人的な解釈としては・・・

「メジャーツーファイブ」を「マイナーツーファイブ」に変換した

のだと思います。その根拠は以下の通りです。

  1. 「Dm」が「Dm7-5」になっている
  2. 「9th」ではなく「♭9th」が乗っている

根拠1:「Dm」が「Dm7-5」になっている

改めて、7・8小節目のコードの変化を見てみましょう。7小節目にDm7-5が挿入されています。

元のコード Dm
G
コード Dm7Dm7-5 G7G7add♭9
度数 ❷m7 ❷m7-5 ❺7 ❺7add♭9

元々の7・8小節目のコードDmGは、❷mと❺です。つまり「Key=Cメジャー」におけるツーファイブ(メジャーツーファイブ)ですね。

コレをマイナーツーファイブに変換すると、

❷m7-5Dm7-5→❺7G7

となります。ほら、これでDmDm7-5になりました。

根拠2:「9th」ではなく「♭9th」が乗っている

次は「♭9th」についてです。

8小節目のG7に乗っているナインスが「9th」ではなく「♭9th」になっているということが、マイナーツーファイブに変化させているなによりの証拠です。

マイナーツーファイブにおける❺7「ミ・ソ#・シ・レ」にナインスを乗せるとなると「ファ」になるので「♭9th」になります(ルートであるミと短2度)。

もしコレがメジャーツーファイブだったら、❺7は「ソ・シ・レ・ファ」であってナインスは「ラ」になるので「9th」になります(ルートであるソと長2度)。

ダイアトニックコードに当てはめて考えると、ですけど。

元のコード Dm
G
コード Dm7Dm7-5 G7G7add♭9
度数 ❷m7 ❷m7-5 ❺7 ❺7add♭9

結論:「メジャーツーファイブ」を「マイナーツーファイブ」に変換

そんな理由から、7・8小節目のコードの変化は

「メジャーツーファイブ」を「マイナーツーファイブ」に変換した

ことによるのでは、と推測しました。

また、

「Key=Cマイナー」からマイナーツーファイブを拝借した

とも言えます。「Key=Cメジャー」の同主調である「Key=Cマイナー」から、マイナーツーファイブを拝借した形です。

・・・この7・8小節目に対するぼくの解釈は、まったく見当違いかもしれませんし、あるいは解説するほどでもない至極当たり前のことなのかもしれません。

まとめ

ずっしーさんの動画の「ツーファイブを使ってドミナントモーション」を解説してきました。

2小節目・4小節目・6小節目のコードの変化は、すべて同じ法則に基づいてコードの配置がなされていたことがおわかりになったのではないかと思います。

このツーファイブを利用したコードチェンジの法則・方法を理解できれば、カノン進行に関わらずいろんなコード進行で応用できそうですね。

みんなが知っている既存曲をカバーするときなんかにこのコードチェンジをかませば、「オシャレ!」と思わせることができるでしょう。

ぜひ活用してみてください。

今回の「ツーファイブを使ってドミナントモーション」の続きにあたる「ツーファイブに裏コードとテンションを入れる」の解説記事はコチラです。

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